Share

2話 新たな能力の発見と試練

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-06-24 14:04:03

「肉って出せるのかな……?」

 ゲームだったら食料も『アイテム』としてアイテムボックスに入っていたよな? ダメ元でも試してみる価値はある。そう思いながら、俺は手のひらに骨付き肉をイメージした。すると、驚くべきことに、湯気を立てる焼きたての骨付き肉が、俺の掌にぽんっと現れたのだ。その香ばしい匂いが鼻腔をくすぐり、焼けた肉汁の脂っこい香りが空腹感を刺激した。

「マジか!」

 思わず声が出た。これで食料に困ることはなさそうだ。しかも、調理済みでしっかり味までついてる。温かくて旨いし、最高じゃないか!なんでもありだな、この能力……。

「ふぅ~……食った、食ったぁ~。満足だ!」

 満たされた腹をさすり、俺はにんまりと笑った。体中に力が満ちていくのを感じる。ゴクゴクと水を飲み干し、上機嫌で再び歩き出した。高原の心地よい風が頬を撫でていく。太陽はまだ空高く、柔らかな陽光が足元を照らしている。

 数時間、さらに山道を進んでいくと、目の前に現れたのは、まさしく**「会いたくない」存在**だった。

「うわっ、最悪のタイミングじゃん……」

 俺は顔をしかめた。それは、体長が牛ほどの大きさもある、黒い毛並みを持つ犬のような巨大な魔物だった。鋭い牙が剥き出しになり、赤い目がこちらをぎらりと睨んでいる。まだバリアも試していないし、俺の戦闘力は一般人レベルだ。体力も素早さも普通。こんなモンスター、俺に倒せるのか?不安が胃の奥をキリキリと締め付ける。心臓がドクドクと不規則に脈打ち始めた。

 とりあえず、使えるはずのバリアをイメージする。全身を覆うように、透明な障壁が展開されるのを念じた。ひんやりとした空気が肌を包むような、ごく微かな感覚があった。

「これで本当にバリアが張れてるのか? ……スゴイ不安なんだけど。これで大丈夫なのか……?」

 次の瞬間、魔物が牙を剥き出しにして猛然と襲い掛かってきた。その咆哮が山に響き渡り、地面が微かに揺れる。まるで突進する岩のような勢いだったが、その巨体は凄まじい勢いで俺の前に展開されたバリアに激突し、『ゴッンッッ!』と鈍い音を立てた。

 魔物は弾かれるように後ずさり、その鼻からは血が滴っている。鼻骨が砕けたような音だった。何が起きたのか理解できないとでも言うように、魔物は警戒した面持ちでバリアから距離を取り、ウロウロと徘徊しながら次の機会を伺っている。ひとまず危険は回避できたが、倒せてはいないため安心はできなかった。

「おおぉ! バリアは使えた!」

 俺は興奮を隠せない。手のひらにじんわりと汗が滲む。

「でも……倒せなきゃ。これは、完全に消耗戦になるなぁ……」

 今のところは攻撃を防げている。だが、犬型の魔物はバリアの前を諦めずにウロウロと動き回り、こちらを鋭い眼光で睨みつけている。あの飢えた視線は、まだ諦めていない証拠だ。全身の毛を逆立て、唸り声を上げている。このまま逃げても、あの巨体とスピードではすぐに追いつかれるだろう。こんなデカブツが相手じゃ、素手じゃ俺は瞬殺されるな。

 仮に武器があったとしても、俺には扱った経験がない。完全に無理だ。魔法が使えれば遠距離から攻撃できるのに……。武器なら弓矢か?でも、弓矢も使ったことないし……。

 バリアがあるからと安心しきって考え込んでいた、その時だった。

 魔物が、バリアの僅かな隙間を見つけて、再び飛び込んできた!その獣臭い息が、一瞬だけ肌を撫でる錯覚に陥る。喉奥から唸り声が響き、飛びかかってくる巨体はまるで黒い塊のようだった。

 とっさに俺はバリアを張り直した。すると、俺に迫っていた犬型の魔物の首が、バリアに触れた瞬間に『スパッ!』と乾いた音を立てて切り落とされた。まるで豆腐を切るかのような、あまりにも呆気ない音だった。

 首のない巨体が、重い音を立てて地面に倒れ伏す。ドクドクと脈打つ血が、地面に赤い染みを作っていく。血の生臭い匂いが鼻をついた。

「え? バリアって……防御だけじゃ……? え? ……お、おおぉ! まさか、攻撃にも使えるのか!?」

 俺の目が見開かれる。心臓がドクドクと高鳴り、全身の血が逆流するような感覚に陥った。

「すげぇ……これは大発見じゃないか! じゃあ、俺って結構強いのかも? 俺……すげぇ!」

 興奮で息が荒くなった。口角が自然と吊り上がる。

 今のモンスターが、この世界でどれくらいの強さの部類に入るのかは分からない。もし最弱の部類だったら、この先が不安だが……でもバリアで簡単に倒せたし、もしかしたら大丈夫かもしれない。

 その後もモンスターが現れるたびに、俺は遠距離からバリアを操り、モンスターの首を落としていった。その度に、獲物が崩れ落ちる鈍い音が森に響き渡った。血の匂いが漂うが、もはや驚くことはない。

 そうして、日が傾き始め、空が茜色に染まる頃、ようやく町までたどり着いた。遠くから町の灯りが見えた時、安堵の息が漏れた。

 よく考えれば、町に入らなくても俺は生きていけることに気づいた。テントをアイテム生成で出して、その周りにバリアを張ればモンスターに襲われる心配もない。食料も調理済みで手に入るし、必要なものがあれば何でもアイテムで出せる。

 ……あれ? なんで苦労して町まで来たんだっけ? 町に行く必要って……なくないか?

 まあ、せっかく異世界に来たんだ。山に引きこもってばかりいてもつまらないだろう。

 どうせなら……可愛い女の子とも出会いたいし、良い友達も欲しい。

 前世では彼女を作れなかったし……今度こそは欲しい!

 まずは、この世界の情報を集めてみるか。こういう時は、冒険者ギルドか酒場で情報収集するのが定石だろう。

 ——予期せぬ変貌と貴族との再会

 町のざわめきに導かれるように、近くに酒場らしい建物があったので、迷わず足を踏み入れた。古びた木のドアが軋む音を立てて開く。中は薄暗く、酒と汗、そして燻した肉の匂いが混じり合っている。床は薄汚れており、奥からは野太い男たちの笑い声が響いていた。

「おい、坊主! こんな所に何の用なんだ? 親でも、ここに居るのか?」

 店に入った途端、20代半ばくらいの冒険者風の男に声をかけられた。彼の顔には警戒の色が浮かび、腕組みをして俺を見下ろしている。背が高く、俺よりも頭一つ分は大きい。

「ん? 何の用って……」

 酒場なんだから、酒を飲みに来たと思うのが普通だろ? なんだコイツは。今回は酒を飲みに来たわけじゃないけどさ。

「この町に来たばかりで、この町や周りのことを聞きたくて来たんだけどダメだったか?」

 俺はできるだけ穏やかに答えた。

「だったら、まだ子供なんだから広場とかで聞いた方が安全だぞ」

 男は呆れたように言い放った。その視線は完全に俺を「子供」と見なしている。

「何を言ってるんだ?」

 大人が子供に声をかけていたら、それこそ怪しい奴になっちゃうだろ……。俺は首を傾げた。ん?そういえば、さっきから目線が少し低い気がするな……。

「あぁ……はい。分かりました。広場ですね……」

 面倒を起こしたくなかったので、俺は素直に酒場を出た。

 言われたことが気になったので、手鏡をアイテム生成で作り、バッグから出した振りをして自分の顔を見てみた。そこに映っていたのは、中学生くらいの可愛らしい男の子の顔だった。童顔というレベルではない。肌は滑らかで、輪郭も全体的に幼い。

「はっ!? ……え?」

 思わず息を飲んだ。もしかして……あの時のサーシャの『サービスしておくね!』というのは、このことだったのか? サーシャの趣味なんじゃないのか? 若返るのは嬉しいけど、若返りすぎじゃないか? でも、モテそうな顔立ちになっているのはありがたいし助かるけどさ。そう思いながらも、内心では複雑な気分だった。

 言われた通り広場に来てみると、たくさんの人で賑わっていた。子供たちの笑い声や行商人の呼び声が飛び交っている。焼き菓子の甘い匂いや、香辛料の混じった匂いが風に乗って運ばれてくる。知らない人に声をかけるのは苦手なんだよなぁ。俺はあまり社交的な方じゃないし、どうやって話しかけようかと躊躇していた。

 そんな時、町の入り口付近がざわつき、騒がしくなった。

「ん? なんだろ? 騒がしいな……」

 喧嘩か? にしては怒鳴り声は聞こえないし、助けを求める声だけだ。人々の視線が一斉にそちらに集まっている。まるで磁石に引き寄せられるように、ユウヤもその方向へ意識を向けた。

 気になって近づいてみると、そこに目を疑うような光景が広がっていた。モンスターに襲われたのだろう、ボロボロになった馬車のドアが壊れて中が丸見えになっていた。

 馬車からは、焦げ付いたような獣の匂いがする。座席に横たわるのは、豪華なドレスをまとった少女。しかし、その腹部は深く切り裂かれ、内臓まで達していそうな酷い傷口からは大量の血が滴り落ち、美しいドレスを真っ赤に染め上げていた。鉄錆びのような血の匂いが鼻をつく。

 顔色は完全に青白く、素人の俺が見ても、これが尋常ではない状態なのは一目瞭然だった。呼吸も浅く、かすかな呻き声が聞こえる。

 そんな状況だというのに、周りにいる使用人たちや護衛の兵士たちは、『医者を呼んでくれ!』と叫びながらオロオロと慌てふためいているだけで、誰も傷を負った少女に近づこうともせず、応急処置すらしようとしていなかった。彼らの表情は恐怖と絶望に染まっている。ただ呆然と立ち尽くすばかりだ。

 馬車の後方からは、遅れて負傷した護衛の兵士たちもフラフラと歩いてきたかと思うと、グッタリと馬車の周りに倒れ込み、地面に横たわった。彼らの鎧は傷つき、疲労困憊の様子で、荒い息遣いが聞こえてくる。よく見ると、兵士たちも皆、戦闘の生々しい傷を鎧に残していた。

 貴族の娘は何とかまだ息があるようだが、この傷は医者では治せないのではないか?というか……治癒魔法は?回復魔法とか治癒スキルとか、治療のポーションは?なんで医者なんだ?この世界の医者は、何か特別な能力でも持っているのか?

「治癒魔法とかポーションで治さないんですか?」

 俺は近くにいた通行人に、思わず尋ねてみた。

「チリョウマホウ? 何だそれは? ポーションなんて薬草を調合しただけの物で、あの内臓まで達している傷が治るわけがないだろう! ……まぁ、あれだけの傷は医者でも無理だな……」

 通行人は訝しげな顔で答えた。その言葉に、俺は呆然とした。剣と魔法の世界じゃなかったのか?ポーションも薬草を調合しただけの液体?要するに、お茶とか栄養ドリンクみたいな飲み薬ってことか?俺の知るゲームの世界とは、どうも勝手が違うようだ。

 それよりも、早くしないとこの少女は助からなくなる。

 俺は人混みをかき分けて進み、馬車の中に横たわる少女の元へ駆け寄った。人々のざわめきが遠ざかり、少女の苦しそうな息遣いが鮮明に聞こえてくる。

「意識はあるか?おい!返事をしろ」

 貴族の少女に近づき声をかけ、体を触って脈を確認した。脈は弱々しいが、まだ生きている。

「貴様は何者だ!」

 その時、周りにいた護衛の一人が、険しい表情で俺に詰め寄ってきた。顔には深い疲労と怒りが滲んでいる。そして、俺の肩を掴み、少女から遠ざけようとした。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。   94話 幸福の帰路と、二人の時間

     その仕草は、まるでお気に入りのぬいぐるみを抱きしめる子どものようで――けれど、そこには「わたしのもの」という強い意志がこもっていた。 レニアは、少しだけ目を伏せて、かすかに笑みを浮かべた。「……私のような者は、相手にされませんので。大丈夫です」 その言葉に、ユウヤは思わず言葉を詰まらせた。(いや……レニアは、十分可愛いと思うけど) 心の中でそう呟く。しかし、それを口に出してしまったら、目の前の状況がどうなるか、本能的に理解していた。「……ユウヤ様?」 にこぉっと満面の笑みを浮かべたミリアが、ユウヤの腕にさらにぎゅっとしがみついてくる。その圧力から、何らかの警告を感じ取った。(……あ、今、何か言ったら終わるやつだ) ユウヤは、何も言わずに、ただただ高く広がる青空を見上げた。穏やかな風が吹き抜け、ミリアの豊かな金髪がふわりと揺れる。その動きに合わせて、ほんのりと甘い香りが鼻腔をくすぐった。「この近くに住んでるの?」 ユウヤの問いかけに、レニアは小さく頷いた。「馬車で三十分ほどのところに、小さな村があります。王都の外れにある農村で、私の家が治めています。農産物の供給地として、王都にも野菜や穀物を届けているんです」「そうか……多分、治ると思うけど、もし治らなかったら――」 ユウヤは、ちらりとミリアの方に視線を送り、彼女の表情を確かめてから、優しい声で続けた。「ミリアの屋敷に居るから、来てもらえれば俺が直接、治しに行くよ」 その言葉に、レニアの目がぱっと見開かれた。希望の光が、彼女の瞳の中で瞬く。「……ありがとうございます」 その声は、震えるほどに嬉しそうで――レニアの顔に、はっきりと希望の光が灯った。長い間、諦めかけていた父の病が治るかもしれないという、確かな希望だった。 けれど、その瞬間――「……ユウヤ様?」 ミリアが、にこぉっと笑いながら、ユウヤの袖をそっとつまんだ。その笑顔は柔らかいけれど、どこか拗ねたような気配が混じっている。「『ミリアの屋敷』って……まるで、わたくしのところに居候しているみたいな言い方ですわね?」「え、いや、そういう意味じゃなくて……」 ユウヤは慌てて否定する。「ふふっ、冗談ですわ。……でも、あまり他の女の子に優しくしすぎると、嫉妬しちゃいますからね?」 ミリアは、そう言ってユウヤの腕にぴたり

  • 異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。   93話 彼女の勇気と、特別な薬

     今は、髪も整えられ、ドレスも綺麗に着こなしている。けれど、その表情にはまだ、どこか不安が残っていた。「あ、あの……先程は、本当にありがとうございました」 少女は、ユウヤとミリアの前で深く頭を下げた。「あれは……ヒドかったしね」 ユウヤが静かに返すと、少女は小さく頷いた。「ホントに……助かりました。あのままだったら、きっと……」 言葉の先を飲み込みながらも、感謝の気持ちは確かに伝わってくる。ミリアも、そっと微笑んで言葉を添えた。「あなたは、何も悪くありませんわ。あの場で毅然としていたこと、わたくしは誇りに思います」 少女の目が、かすかに潤んだ。そして、もう一度、深く頭を下げる。「……ありがとうございます」 その姿に、ユウヤはふと、“助ける”という行為の意味を、改めて感じていた。「……いつものことですから、大丈夫です。み、ミリア皇女殿下だったのですね……」 貴族の少女は、少し緊張した面持ちで頭を下げた。ミリアは、にこやかに頷く。「はい。ミリアですが?それより――ユウヤ様のお陰で、いじめてくる人は居なくなったんじゃないのかしら?」「……はい。助かりました……」 貴族の少女の声は、かすかに震えていたが、その表情には、確かな安堵が浮かんでいた。 けれど、(……他にも、何か話したそうだな) ユウヤは、貴族の少女の視線が何度も揺れているのに気づいた。言葉を選ぶように、何度も口を開きかけては閉じている。「何か他にも話がありそうだけど?」 ユウヤがやんわりと促すと、レニアは小さく息を吸い、勇気を振り絞るように口を開いた。「……はい。えっと……冒険者の方が話していたのを聞いたのですが……薬屋さんと、お聞きしたのですが……本当でしょうか?」「あ、うん。薬屋だよ」 ユウヤは、少し照れたように笑って答えた。それは、戦場でモンスターを一掃した“剣士”の顔ではなく、人を癒す“薬屋”としての、素朴な笑顔だった。「

  • 異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。   92話 英雄と、ただの薬屋

     驚いた顔をして、「何者なんだ」と聞かれたけど、(……俺は薬屋、だよな?) 王子って、職業なのか?いや、違うよな。肩書きだ。でも、それを名乗るのもなんか恥ずかしいし、そもそも信じてもらえないだろう。(他国の王子が、護衛も連れずにモンスターの出る場所に来るなんて、普通ないし……) だから、ユウヤは少しだけ困ったように笑って、答えた。「えっと……薬屋ですけど?」 その瞬間、「そんな薬屋がいるかよ!!」 冒険者の叫びが、森に響いた。ユウヤは、苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。(だよね~。やっぱ信じてもらえないかぁ) じゃあ、なんて答えればいいんだよ?王子?いや、それはもっと信じてもらえない。しかも他国の王子が、護衛も連れずにモンスターの巣に来るなんて、どう考えてもおかしい。(……薬屋って言っても、服がこれじゃ説得力ないしな) 冒険者たちの視線が、じりじりとこちらに集まってくる。俺の着ている、王族仕様の豪華な服。そして、六体のモンスターを一瞬で斬り伏せた異常な強さ。そのギャップが、彼らの脳を混乱させているのが、痛いほど伝わってきた。「……じゃあ、なんて言えば納得する?」 思わず、ぼそっと呟いた。誰かが、ぽつりと答える。「……“勇者”とか、“伝説の剣士”とか……?」「いや、それはそれで恥ずかしいな……」 ユウヤは頭をかきながら、ため息をついた。(肩書きって、難しい)「そう言われても、薬屋なんですけどね……」 ユウヤが肩をすくめてそう言うと、冒険者は戸惑いながらも頷いた。「そ、そうなのか……薬屋ね…&hel

  • 異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。   91話 六体の魔物と、最強の薬屋

     ただの八つ当たりだった。誰にも見られていない、誰にも知られない、そんな“感情の処理”のつもりだった。 けれど、ふと頭をよぎる。(……あれ、仲間だったんじゃないのか?)(俺が倒したあいつらの“家族”とか、“群れ”とか――)(それで、怒って……復讐に来た?) 王都の外れに現れたという、人型モンスターの群れ。冒険者ギルドが緊急出動を要請するほどの規模。負傷者が続出し、街が混乱しているという報せ。(……俺が、引き金を引いた?)(……大量発生って聞いたけど) 現場に到着したユウヤは、眉をひそめた。森の開けた一角。そこには、確かに人型のモンスターがいた。――六体。(全然、大量じゃないし) てっきり、十体以上が暴れているのかと思っていた。王都が騒然となるほどの規模なら、それくらいは当然だと。だが、目の前にいるのは、たったの六体。その六体が、数人の冒険者たちと激しく交戦していた。剣戟の音、叫び声、飛び散る血――現場は、確かに“戦場”だった。 ユウヤは、交戦中の冒険者の一人に声をかけた。「えっと……モンスターって、これだけ?」 その言葉に、冒険者が振り返る。顔には、驚きと苛立ちが浮かんでいた。「『六体も』の間違いじゃないのか!?六体もいれば、十分に脅威だろ!」 その声には、怒りというより、“理解されないことへの焦り”が滲んでいた。ユウヤは、少しだけ目を丸くした。(……あ、そっか) 自分にとっては“六体”でも、普通の冒険者にとっては“六体も”なのか。その感覚のズレに、少しだけ申し訳なさを覚えた。「……それで全部で六体?他の

  • 異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。   90話 遠い祈りと、近くの悲劇

     その穏やかな時間を破ったのは、王様のもとに駆け寄る使者の声だった。「陛下、冒険者ギルドより緊急の出動要請が届いております!」 その声に、場の空気が一変する。王様が使者から書状を受け取り、目を通すと、眉をひそめて静かに呟いた。「……人型のモンスターが、大量に現れた、か」 その言葉に、周囲の将軍たちがざわつく。そして、王様の視線が、まっすぐにユウヤへと向けられた。その眼差しには、問いかけも命令もなかった。ただ、静かな“信頼”があった。 ユウヤは、すっと立ち上がる。(……俺のワガママで兵士を練習相手に貸してもらったんだ)(だったら、今度は俺が返す番だ) ミリアが、不安そうにユウヤの袖を掴んだ。「ユウヤ様……行かれるのですか?」「ミリア、行ってくる」 ユウヤが立ち上がり、軽く手を振るように言うと、「ダメです。お休みください!ずっと戦い続けていますよ!」 ミリアが、すぐさまユウヤの腕を掴んだ。その手は小さくて華奢なのに、驚くほど強くて、何より、温かかった。青く透き通った瞳には、明らかに疲労を気遣う色が浮かんでいる。「いや……人型のモンスターが大量に現れてるんだよ?」「ですから、少しお休みください!」 ミリアの声が、少しだけ震えていた。それでも、ユウヤは苦笑して肩をすくめる。「まだ余裕あるしさ。俺は薬屋だよ?体力回復薬もあるし、ちゃんと使うから」 その言葉に、ミリアは唇を噛みしめた。言い返したいのに、言葉が出てこない。そして――「ううぅ……気を付けてくださいよぅ……!」 ミリアは、掴んだ腕をぎゅっと握りしめたまま、涙をこらえるように顔を伏せた。ユウヤは、そっとその手を包み込むように握り返す。「……分かった」 

  • 異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。   89話 魅せる戦いと、勝利の代償

     そして、視線の先には、三十人の兵士たちが、静かに木剣を構えて待っていた。「格好良いところ、見ててくれる?」 ユウヤが軽く笑ってそう言うと、ミリアは、ふるふると首を振った。「そのようなことをなさらなくても……ユウヤ様は、もう十分に格好良いですわ……」 その声は、かすかに震えていた。青く透き通った瞳が、うっすらと潤んでいる。それでも、ミリアはしっかりと頷いた。 その姿に、ユウヤは小さく息を吐いた。(……俺の、自己満足なんだけどね) けれど、彼女のその言葉が、胸の奥にじんわりと染み込んでいく。 そして、視線を前に向ける。そこには、整然と並ぶ三十人の兵士たち。全員が木剣を構え、無言でユウヤを見据えていた。(うわぁ……実際に対峙すると、結構な迫力だな) 木剣の列が、まるで壁のように立ちはだかる。その圧力は、数の暴力そのものだった。だが、ユウヤは、静かに剣を構えた。その動きに、無駄は一切なかった。観客席が静まり返る。誰もが、息を呑んで見守っていた。 そして、試合が、始まった。 木剣を構えた三十人の兵士たちが、一斉にユウヤに向かって殺到する。その動きは、まるで訓練された獣の群れのようだった。だが、ユウヤは動かない。その静けさが、かえって周囲の緊張感を高めていく。 ――シュッ! ドスッ! ドスッ! ドスッ! 木剣が交錯する音が、運動場に鋭く響く。ユウヤは、地を蹴った。彼の身体が、一瞬で空へと舞い上がる。宙を舞い、降り注ぐ剣の雨を避けながら空中で一回転。その回転の勢いを利用し、木剣を水平に一閃させる。風を切り裂き、最初に飛び込んできた兵士の胴体を一撃で叩き伏せた。 着地と同時に、しなやかなバク宙。背後にいた兵士たちの死角に滑り込み、木剣の柄で脇腹を正確に打ち抜く。一撃。次の瞬間には、別の兵士の懐に入り、剣を弾き、足を払って倒す。その動きは、もはや剣術ではなかった。 まるで舞踏。 剣を振るうというより

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status